米中貿易戦争は丸く収まりそう

 米中貿易戦争は予想通り丸く収まりそうである。トランプ大統領が米国の貿易赤字の最大の要因を作っている中国に対して、今年3月中国の知財権侵害に対する報復措置として、米通商代表部(USTR)に約500億ドル、最大で600億ドルに及ぶ中国製品に対する高額関税賦課を指示したことが発端で、一時中国は米国の農産物の輸入にも25%の課税をすると受けて立つ発言をしていた。これは中国人民にとっても痛みを伴う措置であり、いずれ両国は水面下で交渉を重ねると予想していた。ところが、最初の中国での会談ではお互いに目いっぱいの主張をするだけで、歩み寄りの気配は無かった。中国側は、国有通信機器大手、中興通訊(ZTE)への米制裁緩和がなければ、米国へ交渉に行くことは無いと強気の発言をしていた。

 しかし、ムニューシン米財務長官は5月20日の米テレビ番組で「貿易戦争を当面保留する」と明言した。500億ドル分の中国製品に高関税を課す対中制裁案を、ひとまず棚上げするという中国へのメッセージにほかならない。中国が米製品の輸入を増やすと表明し、米側はいったん矛を収めたかたちだ。ただ、中国通信機器大手への制裁をはじめ双方の溝は少しも埋まっていない。米商務省は4月、イランと北朝鮮への禁輸措置違反に絡んでZTEに制裁を発動。同社は半導体など基幹部材を調達できず経営危機に陥った。

 トランプ大統領はZTE救済を「習近平(シー・ジンピン)国家主席に頼まれた」と暴露した。中国交渉団にとって「ZTEは失敗が許されない交渉」(外交筋)となったが、米議会は「中国の輸入拡大策と引き換えに制裁を緩めるべきではない」と反対論が噴出。人民解放軍とも関係するZTEは安全保障面で米議会の警戒感が極めて強く、トランプ氏の「ディール」で動かしにくい。

 その背景にあるハイテク摩擦も解決の道筋がみえない。トランプ政権が求めるのは習政権が巨額補助金を使ってハイテク産業を育成する「中国製造2025」計画の見直し。米国には同計画が技術移転の強要や世界的な供給過剰につながるとの見方が強い。中国側は人工知能(AI)など次世代産業の覇権争いに乗り出しており、今回の協議も平行線だったようだ。また中国が輸入を増やす時期や品目等についても明確な形では決まっていない。

 もともと中国政府は、4月8日に海南島の瓊海市(Boao市)で開催されたBoao Forum for Asia(スイスのダボスで開催されている世界の政治家・財界人・知識人が集まるダボス会議を主催する世界経済フォーラムにならい、そのアジア版を目指して、中国政府の全面的支援を受けて構想された会議)において習近平国家主席が述べている通り、中国はいたずらに貿易黒字を追求するのではなく、自発的に輸入を拡大するという方針であった。だから、中国側にとってはZTEの問題以外は輸入を増やすことは既定路線で何の痛痒もないことになる。

 要するに米中の貿易戦争はありえない話であり、お互いにブラッフの掛け合いであったということである。これにより金価格や原油価格が高騰すると思うのは勘繰り過ぎであろう。

 トランプ大統領は、11月の中間選挙に向けて国内向けの発言をしている。5月1日時点の主要世論調査平均値は、民主党の支持率45.6%で共和党の39.6%をリード。下院では民主党に過半数を奪還されるとの予測が出ている。ただ、1月17日時点の主要世論調査平均値は、民主党の支持率47.6%に対して共和党は37・1%だったので、4か月で民主党が▲2%減り、共和党が+2.5%改善し、その差が縮小している。トランプ政権の政策は一部の有権者には受けているのかもしれない。

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