商品市場に対するイラクの影響

 イラクで『イラク・シリアのイスラム国(以下ISIS)』がイラク第二の都市モスルのイラク正規軍を敗走させ首都バクダッドに迫っているというニュースに金も原油価格も値上がった。世界第5位の原油埋蔵量を持ち、第8位の生産量でOPEC諸国の中ではサウジアラビアに次いで二番目に大きい日量330万バレル(2014年5月)を生産する石油大国イラクに戦争が起きたことで、市場は一時騒然とした。しかし、事情をあらゆる角度から見るにつけ、この問題は張子の虎であるという感が次第に膨らんでいる。
 
 当初は、三つの性格を持った戦争であると認識した。一つは宗教戦争で、イラク国民の2割を占める元フセイン大統領派が属するスンニー派と7割を占めるシーア派の対立と言う構図である。スンニー派の背後にはサウジアラビアがあり、シーア派はイランがいるので、その代理戦争かとも思われた。

 二つ目は民族戦争で、北部に居住するアラブの無国籍の民クルド人対アラブ人の戦いで、前者が2割、後者は7割である。クルド人はトルコに最も多い1500万人が住んでいる民族であるが、どの国でも異端者であり、トルコ政府はクルド人対策で手を焼いている。

 三つ目の側面は、アルカイダから分派した過激派武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」であり、別名「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」とも言い、アラビア語では、「ダーイシュ」と呼ばれているという。アルカイダといえばウサマ・ビン・ラディンを思い出すが、その後継者であるアイマン・ザワヒリがISISの残虐さに目をそむけたほどISISは残忍な組織であるようだ。そのためザワヒリとは一線を画し、もっぱらシリアで活動していたが、シリアとイラクにイスラム国を創設するという目的があるらしい。

 これらの要素をすべて含んだ混成部隊が攻めているのかと誤解していたが、よく情報を収集すると、反乱軍はISISの5千人程度だという。イラク第二の都市のモスルを制圧して銀行を襲い、20億ドルの資金を持ち出したといわれ、刑務所を開放して囚人をリクルートしているという。ISISを率いるアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者は、絶大な力を持つにもかかわらず、その人物像はほとんど明らかではない。アメリカ政府は、同容疑者の拘束につながる情報提供に対して、約1000万ドル(約10億円)の懸賞金をかけているにも関わらず情報が出てこない。ロイターによると、バグダディ容疑者は1971年、イラクのサマラ出身。バグダッド大学でイスラム学を学び、学位を取得。アルカイダ系組織の構成員として戦闘に加わった後、2010年にアルカイダ系組織「イラク・イスラム国」の指導者に就いた。
 民族対立の側面のクルド人は、この混乱に乗じてクルド自治区を取りまとめ独自の軍隊「ペシュメルガ」は、北部のキルクークを占拠してISISの侵入を防いだという。つまりクルド人はISISとは別行動を取っている。クルド人は北部の油田から産出する原油をトルコに通じるパイプラインによってタンカーに積み込み、結局イスラエルに売却したという。しかし、トルコはクルド人の独立を嫌っており、いつまでも北部のパイプラインを使えるかどうかわからないという。
 宗教対立については、元々イラクは大統領はスンニー派、首相はシーアは、議会議長はクルド人と地位を分け合っており、意思の疎通が全く無く対立しているわけではない。従って単純に宗教戦争と断ずるわけにはいかないようだ。

 アラブ諸国は混沌とした諸勢力のるつぼであり、一筋縄では理解ができない地域であるが、ISISは烏合の暴徒であり、大義をもって多くの精鋭部隊が参加しているわけではないようである。今回のイラクの内乱は、ISISの残虐性を知るイラク軍兵士が闘う前に逃げ出したというのが真相であるようで、米オバマ大統領としては、まともに戦う相手というよりは大きな暴徒集団と認識しているのかもしれない。それなら、イラク軍で十分対処できると判断し300人の軍事顧問団を送るだけにしているのではないかと思われる。
 
 原油の需給に影響があるかどうかについても、現在の生産はイラク南部で8割以上が生産され、バスラ港等ペルシャ湾から欧米やアジア諸国に輸出されているため、中北部の戦闘はほとんど影響はないという。北部の油田はイラク国家の所有であるにもかかわらず、クルド人が売却しているという事態はあるが、生産が止まっているというわけではないようだ。ただ、北部の原油開発が止まるとOPEC諸国にとっては大きな生産増の見込みが立たなくなるが、将来の話である。
 
 どうやら、イラク問題は、たぶんに心理的な影響があるのみである。しかし、市場は地政学的リスクとしてイラク問題をとらえ、価格に影響がないとは言えない。ただ、その影響の度合いは事態が明白になるにつけ減衰していくと思われる。

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